撮影は順調に進みあっという間に本番当日がやってきた。
いつになく固い顔で昴はスタジオに入る。

「おはようございます」

次々に他のキャスト、スタッフが挨拶に返事をしてくれる。

今日の撮影は昴と千秋の2人で刀を用いて戦うシーン。
メイク室に入る前に挨拶を終えた足で鈴屋のもとへ向かった。

「監督、おはようございます。櫻井です」

「おぉ櫻井、おはよう」

コーヒーを飲んでいた鈴屋が振り返る。
影で隠れていたが千秋も一緒にいたようだった。

「櫻井さんおはよう、今日はよろしくね」

千秋はいつも通り余裕がある様子で昴に笑いかけた。
いつどのような環境でも狼狽えることがない。

大物俳優となれば動じることなんてないのかな…と思いつつ返事を返した。

「千秋さんもいらっしゃったんですね!おはようございます。今日はよろしくお願いします。ずっと練習はしていたんですがやっぱり緊張しますね…」

そんなやり取りを聞いていた鈴屋は傍らに置いてあった台本を手に取り口を開く。

「アクションシーンだから万が一にも大怪我しないようにリハの時間は長くとってある。まぁ体力勝負だからそんなに何回も出来ないだろうけど。だから櫻井、そんなに不安がらなくていいから」


「緊張しない方が無理です…」

普段滅多にすることのない泣きそうな顔をした女優に鈴屋と千秋は2人で笑った。