控え室にてメイクをしている最中、テーブルの上に置かれたケータイの画面が光った。
手を伸ばすと芽衣の名前が表示されている。


「友達?」
髪をセットしながら昴のメイク担当、今井が尋ねた。


「はい、学校の友達で」


「勉強もしなきゃいけない、仕事もしなきゃいけない。大変ね〜」と笑う。


好き嫌いがはっきりしている昴のことだ。好きじゃなければここまで続けてこれなかっただろう。


「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあったんだけどさ。今、恋愛してる?」


その突拍子も無い話題に固まった。
(どこからその話が出てきたの!?)


「え、恋愛ですか!?」


「だって昴ちゃん、そういうお年頃でしょ?1人や2人好きな人いないの?」


「いたらいいんですけど…」と濁す。


「彼はどうなの?」
誰のことか聞き返すと、ニンマリとする今井。
「誰って…決まってるじゃない。宮藤くんよ」


「優ですか?ただの友達ですよ!
最近仕事で一緒になることが多くて」
今年に入ってからドラマに続き映画まで一緒に撮影を行っていた。


友達ねぇ…とぶつぶつ言いながらも手は動かしている。
あっという間にメイクは仕上がっていた。


「さすが今井さん、ありがとうございます!」
それだけ言い残して台本片手に部屋を出て行った。


バタンとドアが閉まり、残された今井は道具を片付ける。
(昴ちゃん…いくら友達って言ったって相手は違うでしょ)


そんな心配をよそに彼女はスタジオのソファーに座って自分の番を待っていた。
手に持った分厚い台本は表紙が汚れてきている。


遠くから演技中のキャストたちの声が届いていた。
遠目から見ても物語の張り詰めた空気は痛いほど伝わってくる。


カットの声がかかり、ふっと何かが切れたように空気が変わる。
無意識のうちに昴もため息を吐いた。


「何のため息ですか?」


後ろにグレーのスーツを着た青年が笑いながら立っていた。