昴と優が喧嘩になった日、2人は必要最低限の会話しか交わさなかった。
それは学校だけではなく、映画『コードネーム』の撮影現場でも変わらない。


そんな微妙な関係のまま、ついに文化祭一般公開日…劇の本番を迎えた。


「ちょっ…海斗、来い」


公開に向けてクラス企画の最後の打ち合わせ中、蔵之介が腕を引っ張り海斗をトイレまで連れ出した。


「な、なに蔵之介…」

「優のことなんだけどさ」


あぁ!あいつね!と、海斗はニヤリとする。
が、その直後深いため息を吐いた。


「この前の劇の通し練習のとき優に言ったんだよね。ちゃんと言わないと思ってること伝わんないよって」


それにしてもここまで伝わらないなんて櫻井さんもちょっと鈍感かも、と一言付け足して苦笑する。


「あの時は優わかったようなこと言ってたんだけど…」


「でもあいつ全く動いた気配無いぞ?
いつまであのままでいる気なんだよ」


他人のことと言えば他人のことなのだが、あまりにも歯痒く2人は苛つき始めていた。


「なんかこう…どうにかならないもんかな…」


「そうだ!」
その蔵之介の言葉に指をパチンと鳴らして声高らかに宣言する海斗。


「周りから攻めていこう!!」


蔵之介はどこかで聞いたフレーズだと思いながらも、具体案の提示を求めた。


「友達に協力してもらうしかないでしょ」


「友達って…」


決まってるじゃん、と勝ち誇った笑みを向ける。


「ここは彼女の出番!」