「あー、逃げられちゃったか」


柱の影から聞こえる声に思わず見ると、そこには色素の薄い髪をした生徒が楽しそうに立っていた。


「海斗、いつからいたんだ…」


それは友人で管弦楽部長の久石海斗だった。


「わりと最初のほうからね。
『ねぇ、優、なんなの?』
『それは俺の方だよ』ってところ」


「………………………」


(わりと最初じゃなくて、本当に最初っからいるんじゃねーかよ!)


適当に誤魔化そうと思ったが全て聞かれていたなら弁解の余地は無さそうだと判断した。


「で、海斗は何でここにいるの」


「2人が体育館から出て行っちゃったから追いかけてきたんだけど」


「あぁ…そっか」
口論で忘れていたが、これから体育館に戻らないといけない。


「あのさー、優。ちょっといい?」


彼のボーイソプラノのような声は普段と違い、気持ち硬く聞こえた。


「何で正直に言わないの?」


「正直にって何を…」という言葉は途中で遮られた。


「好きなんでしょ。櫻井さん」


一切動くことなく優は海斗の顔を見た。
海斗もその表情を崩す様子は無い。


(最近藤森さんとか橋田さんとか、今日は海斗にまでそんな話されるけど…
そんなにわかりやすい態度取ってるか?)


「優は態度がわかりやすいとかじゃなくて、見ててわかりやすいんだよね」


多分自分じゃ気付かないだろうから言っておくけど、と海斗は付け加えた。


「…そんなに俺素直じゃないか」


「いや、見てる方としては面白いほどわかるよ。多分櫻井さんもそういうタイプだと思うんだけど」


だけどね、と諭すように柔らかい声で続きを話した。