「さぁ、着きましたよ」
優が普段住むマンションの正面に車を止める。
いつも通り平井が先に降りた。
トランクを開け荷物を取り出している。
「宮藤さん」
まだ車内に残っていた優に橋田は声をかけた。
はい?と顔を上げると橋田はバックミラー越しに優の顔を見ている。
「これは私がマネージャーでも何でも無いので言えることです。ある人間の戯言だと思って聞いてください」
優しい橋田の表情に、すっと言葉が入ってきた。
(こういう人を好々爺って言うんだろうな)
「宮藤さんは俳優である前に学生、そして1人の人間です。今何を考え何を思っていらっしゃるか私にはわかりません。でも、宮藤優という人間の人生があることを忘れないでくださいね」
「橋田さん…」
「人生後悔しないというのは難しいですが、やらないで後悔するぐらいなら動いてみることを勧めます」
「特に自分が惚れた女性にはね」とウインクする橋田。
「もしかして橋田さんって…」
「宮藤くん!!」
その時タイミング良く車のドアが開き、平井が顔を覗かせた。
「何してるの、ほら帰るよ」
あぁ、すみません、と車を降りてマンションに入っていく優の後ろ姿を見送る橋田。
「これからどうなるんでしょうねぇ」
という楽しそうな独り言は誰にも聞かれることは無かった。
