「この仕事はたかが運転手と思われるかもしれない、でもされど運転手なんですよ」
信号が赤になり車が止まった。
隣には眩しいほどの明かりが点いているビルが何棟も建ち並んでいる。
「昔はマネージャーさんたちも自分のタレントに厳しくてねぇ、タレントたちもどうにかそれを掻い潜って連絡先を交換しようか、アプローチしようかって必死だったんですよ」
「今でもあまり緩くはないですよ」
ねぇ?と隣を見る優。
平井は苦笑いをするしかなかった。
「マネージャーには言えないようなことでも私には話してくれたりするんですよ。話したくても役者仲間にはマネージャーががっちり着いてたりしますからね。そんなとき私に色々と相談をしてきました」
青に信号が変わり車を発進させる。
優も平井も言葉を発することなく、ただただその話を聞いていた。
白い手袋をはめた左手で帽子のズレ直すと、再びハンドルを握る。
「橋田さんは色んな人の恋愛模様を見てきたわけですね」
その平井の言葉に「えぇ」と頷く。
