「青春かぁ、いいですね〜。
私なんて遥か昔のことですよ」
口を開いたのは運転手だった。
昔からリオンプロモーションで働いていたらしく、かつて銀幕のスターと言われた俳優たちの運転を何人も務めたらしい。
「この事務所で働かれて長いですもんね」と平井。
運転手…橋田はシワだらけの顔を更にくしゃくしゃにし笑った。
「今のリオンプロモーションが事務所になる前…役者たちが映画会社と契約していたような頃から運転させてもらってますからねぇ」
そうなんですか、と優は相槌を打つ。
(映画会社と、って…かなり昔だ)
「昔は携帯電話なんて便利なものはありませんでしたから、大物俳優と呼ばれた方々も苦労してましたよ」
「苦労…ですか?」
すると優の疑問に橋田は笑うように返答をした。
「意中の女性にどうやってアプローチするかですよ」
ふふふ、と笑う橋田。
初めて聞く話に平井は興味津津で、目を輝かせて運転席の方を向いていた。
バックミラー越しにその様子を見ていた橋田は話を続ける。
