フィルムの中の君





黒鳥(ブラックバード)の視聴率の良さは業界内でも噂になり、その話は撮影現場にも届いていた。
しかし、現場ではいまいち視聴率が良いという実感はなく、全員が必死になって撮影をしていた。



「ドラマとは思えないハードさだね…」



控え室でそう漏らしたのは昴演じる蘭の父親を演じるベテラン俳優野上和彦。
ブラックコーヒーを飲みながら野上は苦笑いを浮かべた。



「さすが鈴屋さん。
ドラマなのにまるで映画さながら」



監督の鈴屋栄司はもともと映画監督として大ヒットした名作を何本も世に送り出してきた人物。
そんな彼が今回、ドラマをやると聞き業界内は騒ぎになったほどだ。



「でも櫻井昴を主演にするなんて、
さすが鈴屋監督です」



三枝の口からいきなら自分の名前を出され、思わず飲んでいた水を吹き出しかけた。



「ごほっ!…びっくりしたぁ。
かるなさん驚かせないでください!」



「いや、でも三枝の言う通りだよ」



三枝の意見を肯定したのは実力派俳優の真田ハルキ。
ワイルドなルックスと演技力の高さから人気な真田は、黒鳥では珍しい悪役を演じていた。



「昴ちゃんには真の女優だって思わされる演技を見せられてきたからね」



そんなことないです!
と、必死に真田に伝える昴。



「こんなに素敵な役者の皆さんがいる現場で緊張しっぱなしですよ!」



昴ちゃん口も上手いんだからー!
と笑う三枝に釣られ野上と真田も笑う。



現場の雰囲気は作品作りに大きく関わるとは本当のことで、黒鳥の現場は雰囲気が良く視聴率にも繋がった。



「ごほっ…」
咳き込んだ野上は風邪で声が少し掠れており、このところ頻繁に喉のケアをしていた。



「風邪まだ治ってなかったんですね」
三枝は心配そうに野上を見る。



季節の変わり目は風邪を引く人が増え、現場でもスタッフ出演者含め数名が風邪をひいていた。



窓開けて空気の入れ替えしましょうよ!と昴が窓を開ける。
すーっと爽やかな風が入ってきた。
大きなまどから見えるのは隣にある公園の木々。暖かくなってきたからか鳥の鳴き声も微かに聞こえる。



「もうこんな季節なんですね…」



初冬頃から始まった黒鳥の撮影も順調に進み、寒かった気温はいつしか暖かいと感じるほどにまで和らいでいた。



「でもそろそろ黒鳥終盤に差し掛かるのにゲスト来ませんね」



真田の疑問はその場にいた全員が抱いていた。鈴屋は一度言ったことは実行する人間だ。
まさかその役者が渋っていてなかなか撮影に踏み込めないなんてことは無いだろう。
でも鈴屋が冗談や嘘でそんなことを言うとは考えられない。



「皆さん次のシーンの撮影入りますんで準備お願いしまーす!!」



若手スタッフが呼びに来て役者たちはセットへと入る。
カメラが回り始め、その疑問が頭に残っているのは一人もいなかった。