何より、武人にはお礼を言っていない。

励ましてくれてありがとう。

心配してくれてありがとう。

助けてくれてありがとう。

相談に乗ってくれてありがとう。

料理を教えてくれてありがとう。

七夕の日にキレイな星空を見せてくれてありがとう。

兄貴が帰ってくるのを一緒に待っててくれてありがとう。

短い間だったけど、一緒に働いてくれてありがとう。

思い出しても、まだ足りないくらいだ。

「――あたし、行ってきます!」

そう宣言したあたしに、
「行ってこい」

背中を向けたまま、藤本さんが言った。

あたしは家を飛び出した。

武人があたしのことを許してくれなくてもいい。

だけど、せめてお礼だけは言わせて欲しい。

走って向かう先は、『ラグタイム』ただ1つだけ。