私は驚いた表情で固まっていると、おばさんが片手を「ちょいちょい」と振り、顔を近づけてきた。
私もつられて、顔を近づけた。
すると、まるで内緒話でもするかのように、小さな声で言った。
「あそこん家の父親が息子さんに、暴力を振ってるんじゃないかってここの住人さんたちで噂なのよ」
え……
暴力?
私が唖然としていると、おばさんはまた口を開いた。
「私たちも止めに行きたいんだけどね? あそこの父親の顔が物凄く怖いのよ。だから誰も近づけなくてねえ」
「そう……なんですか」
「あなたもなんの用かしんないけどねえ、気をつけなさいね」
そう言って、おばさんは大量のゴミ袋を持ってエレベーターに乗り込んで行った。
一瞬困った私だけど、松井くんの具合が気になり、意を決して行くことにした。

