藍那は気を遣っているのか、一緒にいても、なにも聞いてこなかった。


そのくせ、なにかを聞きたそうにオドオドしたりする。


でも、気を遣わせてるのは、間違いなくそうだ。


「琴……っ」


そんな時、やっとなのか。

藍那が、私に慌ただしく話しかけてきた。


「なに?」


「琴は前に言ったよね……?松井くんとなにもないって。好きじゃないって……」


確かに言ったよ。

でも、それは雪くんだと思わなかったから。


それでも、雪くんを好きだったのは事実だったけれど、なんて言ったらいいのかわからなかった。


ただ、面倒いだけで

「そうだね」

とだけ返した。



「……っ、じゃあっ! 昨日のアレはどういうことなの!?」


藍那が、人気のない廊下で、大きく声をあげた。



「今は……言えない」


私はただそれだけしか、言えなかった。


「ねえ……琴?」

そんな時、頭から降ってきた藍那の声。



「私の事、ちゃんと友だちと思ってくれてる……?」


そんな、藍那の悲しい声。


「…………」

黙っている私に藍那は、


「そう……。それが琴の答えなんだね。わかったよ……」


最後は、目も合わせず、立ち尽くす私に藍那はどこかへ走って行った。




ごめん。


今の私には、まだわからない。



本当にごめんね……。



走り去っていく藍那の背中に、そっと問いかけた。