抱きしめられて、ふと思ったこと。
ただ、どこか懐かしくて──…
どこか暖かい──…
とても、懐かしい匂い。
なにかを思い出してしまいそうな
大きな手。
力強い腕。
別れを感じる背中。
どこか落ち着く腕の中……。
なぜか松井くんを、“懐かしい”と感じる時が多い気がする。
「三浦さん?」
気がつくと、松井くんの服をぎゅっと掴んでいた手が強まっていた。
「……へ?」
マヌケな声と違うことを考えていた恥ずかしさで、顔が真っ赤になる。
クスクスと笑う松井くん。
「……笑わないでよ」
「ごめんごめん。……あ、俺のメガネ貸すから使って?」
抱きしめていた腕が離されていく。
温もりがなくなると、不意にも“寂しい”と思ってしまう。
でも、耳にすうっとなにかが通った。
メガネ……?
「……もしかして、松井くんのメガネ……?」
「そうだよ。俺の」
松井くんのメガネ……私がかけてるの?
「いや、やっぱり返す! 松井くんがつけてて」
ゆっくりとメガネに手をつけ、外し、前に差し出す。
「……俺のやだった?」
「っ……違う!」
むしろ嬉しかった。
ドキドキした。
だけど、閉じ込められたあの日見た顔立ちが良すぎる顔を、他の人には見られたくない。
私だけが、知っていたい……。