にっしーはベースカバーを両手にひとつずつ持って立ち上がり、最後のひとつを私に渡した。


「魚は嫌いなんじゃないの?」

「うん、魚は好きじゃないけど、ペンギンとか好きだから大丈夫」



私の微妙な答えを聞いて、にっしーはそっかと嬉しそうに頷いた。



「二人でどっか行くの初めてだな」

「うん、楽しみだね。
明日10時に学校の前の駅で待ち合わせしよ」



一瞬だけ目を合わせた後、ベースカバーを片付けに二人で部室に戻る。





そうなんだ、今まで一緒に帰ったり家で勉強したりはあるけど、改めて二人きりで出かけるのは初めてなんだ。

付き合って二ヶ月、テスト勉強と野球漬けの毎日だったから......。


うん。ちゃんと付き合おう。
ちゃんとにっしーとデートしよう。


それで、にっしーのこと好きになって、忘れるんだ。
もう、誰が誰のために試合見に来ても、関係ないって言えるくらいに。

忘れるんだ......。