王様とうさぎさん

「貸せ、それ」

「いや」

 お盆を持ってくれようとする允の手を振り払うように、身体の向きを変えた。

 背の高いコップが倒れかけ、允がそれを止めた。

 そのまま、ひょいと持ってくれる。

 もう〜っ。
 いいのに、と思いながらも、所在なく後ろ手を組み、允の後をついて行った。

「ちょっと此処数日忙しくて、忘れてたよ」

 言い訳か?

 いや、そんな気の利いたことはしそうにないな。

 ちなみに、忘れていたというのは、連絡先を訊くことか、それとも私の存在自体をか?

 この人の場合、後者っぽいな、と思う。

 変わってはいるが、まったく悪意も厭味もないキャラだ。

 わざわざこの人を嫌う人間も居なさそうだが。

『俺、あいつ、嫌い』
と言った真人の横顔を思い出す。