允は襖を開けた瞬間、それを見た。
月のかかった山を背に、莉王が自分から忍に口づけている。
「駄目だよ……」
と忍が押し返していた。
それもまた、珍しいことだ、とぼんやりと思った。
二、三歩戻って襖を閉めて、今のを見なかったことにしたい、と思う。
自分がこういう性格だとは思わなかった。
白黒はっきりつけなければならない人間だと思っていたのに。
今、見たものを曖昧に片付けたい。
幻覚だ。
そう決めて、戻ろうとしたとき、莉王がこちらに気づいて笑った。
「あ、卯崎さ……
允さん」
といつものように言い間違う。
苦笑いする様子も普段のままだ。
普段のまま過ぎて怖い。
忍の方が困っている風なのが、完全な異常事態だが。



