もうお昼休みは終わっている。
莉王は慌てて給湯室に駆け込んだ。
「来た来たー」
と潮が笑う。
同じ給湯室を使っている他の部署の女の子たちも何故か妙な笑顔で莉王の到着を待ち構えていた。
既にお昼に配るお茶は淹れ終わったあとのようで、大きなお盆に湯気の立った状態で並んでいた。
潮は顔を莉王の胸許に近づけ、くんくんと嗅ぐような仕草をして見せる。
「醤油臭い」
ぎくりとしたとき、潮は場を仕切るように、さて、と言った。
「さて、莉王様」
潮は、わざと、莉王の『お』のところを長く発音する。
そうすると、王様に聞こえてしまうのだ。
何の厭がらせだ、と思っていると、改まった口調で潮は言ってくる。
「貴女がシステム運用部の男前と出かけるのを見た、という目撃情報があったんですが」
てっきり、他の課か、別の会社の子と出かけるのだと思っていたらしい潮は、
「何よ、もう〜。
水臭い〜
と言い出す。
い、いやあの、何も水臭くはないんだけど、と思った。



