涙に濡れた唇は、 海の味がした。 僕は、彼女の後頭部を押さえ、 何度も唇を貪った。 彼女がいくら抵抗しようと、 絶対に離さなかった。 しかし、 彼女は、抵抗しなかった。 代わりに、 ひとしきり、口付けを交わしたあと、 唇を離した瞬間、 左頬に乾いた音と痛みが走った。 彼女は、思い切り、 僕に平手打ちをかまして、 その場から、 さってしまった。 月をバックにした 彼女の表情は、暗くて見えなくても、 容易に判断できた。