少女は荷台を置いて川に駆け寄り、思いっきり水の中に頭を突っ込みました。

「ぷはぁ」

 水しぶきを上げながら顔を上げた少女は、目を開いて空をじっと見つめました。

 輝くような青空の中を小さな雲がゆっくりと流れていきます。

「俺、青い鳥を見つけてくる」

 そのとき、少女の脳裏に最後の血を分けたお兄さんの声が蘇りました。

「それで青い鳥も、お前のその特別な青い目も、怖いものじゃないってこと、村のみんなに証明してやるよ」

 少女の頭に温かい手をのせて、お兄さんは力強く言いました。

「青い鳥なんて本当にいるの?」

 少女はお兄さんを見上げました。

「青い鳥にあって、お兄ちゃんまで死んじゃったらどうするの!」

 お兄さんはそれに笑いながらゆっくり答えました。

「心配ないさ。おじいちゃんも言ってただろ?青い鳥は人が生まれたときも姿を現すことがあるって。だから死ぬとは決まってないさ。それに―――」

 お兄さんは小川の前で少女の顔を川に近づけさせました。

「見てみろよ。この目のどこが怖いんだ?こんなにきれいな青い目をしてるのに」

 少女は一人、視線を空から小川にうつしました。

 空と同じ色をした瞳が二つ、少女が見つめるとその目も、じっと少女を見つめ返しました。

 少女が笑うとその瞳も同じように笑います。

「村のみんなに証明するよ。必ず青い鳥を探してくる」

 少女は笑いながら泣きました。

 だって、お兄さんは村を出て行ったきり、もう半年も帰ってこないのです。

 少女は一人になってしまったのです。