ひたすらに又四郎は屈折していた。



藩に仕える父親は、異端の剣術家である。



工夫と改善を持ち、学んだ剣術を更に高みへと押し上げるべく、研鑽を重ねた。



息子、特に又四郎に対して、早くから才能を見出だしていた父親は、喋る前から剣術の教育に取り掛かった。



そのしつけは独特な物で、二本の小刀を箸の代わりに使用させた。



物心つく前には、刀の箸で、米粒が摘まめるようになった。



刀を身近に置くことで、刃物の扱いを体で覚えさせた。



又四郎が成長するにしたがい、ナマクラの鉄を打っただけの重い刀を毎日振らせた。



又四郎もそれが当たり前のように毎日苦もなく振り続けた。



ある日は刀と川原で集めた石を、風呂敷に包み、それを背負わせて水錬を行い、谷を登らせ、山を歩かせた。



元服を果たす前には、毎日父親と苛烈な稽古を行った。


父親は、一切手加減無く又四郎を叩きのめした。

ボロボロになりながらも又四郎はその稽古に挑んだ。



そして、いつも生傷が絶えない又四郎を、母親は優しく介抱し、見守った。



やがて、藩校に通うことになった又四郎は、特殊な幼少期を過ごしたため、身近に友人が居なかった。



しかし、孫子を諳じるほどに成長し、藩校で一目置かれる存在になった。


そんな時、事件が起きる。



藩の重役の息子が又四郎に因縁をつけてきた。



誰ともつるまない又四郎を面白く思わない重役の息子は、肩が当たった当たらないと、因縁をつけた。



殴りかかってきた重役の息子を、足を掛けて軽く転ばせ、終わりにするつもりだった又四郎に、抜刀して更に襲い掛かってきたのだ。



又四郎はその刀を拳で払い落とし、腹部に当て身を食らわせ気絶させた。


仲間に支えられながら、重役の息子はその場を去ったが、因縁を残す結果になった。