剣道部顧問・芹沢賀紋(社会科教師)は、社会科準備室に三年レギュラー陣、四人を呼んだ。



かれこれ、あの事件から10日は過ぎた頃だった。



剣道部は夏期大会に向けて、相変わらず激しい稽古を続けていた。



ただ、芹沢はあれ以来一度も道場に顔を出していなかった。



又四郎は、あの事件の翌日から学校へ来ていない。



教科を教える立場でもある芹沢は、拍子抜けしていたが、好都合だった。
剣道部員が口を割らない限り、自分の不名誉は公にならない。



近藤が口を開く。


「師範、お加減は良いのですか?」


「ああ。胸の骨にヒビが入ったが、くしゃみとかしなければそんなに痛くはない。」



又四郎の鮮烈な突きをまともに受けて、胸の骨にヒビが入った芹沢は、ドクターストップも聞かず、痛みに耐えて教鞭を振るった。


それはつまり、自分が高校一年生に合法的な喧嘩に負けた屈辱を、周囲に悟られないためでもあった。



「お前達を呼んだのは他でもない。」


神妙な面持ちで、三年に小声で言う。


「掛かり稽古と称して、お前達が中心になってあの一年を袋叩きにしてもらいたい。」



近藤達はギョッとする。


すかさず芹沢はある紙を見せた。


又四郎の入部届である。


それを見て、更にギョッとする近藤達。



「小野遥が、俺の所に持ってきた。
彼女が言うには、俺が投げつけた竹刀を、あの高柳とか言う一年が背中でまともに受けて、怪我をしたと言っていた。
それで、今回の事は誰にも話さないので、高柳の入部を許可してもらいたいと言う事だ。」



話を受けて、近藤達は激しく狼狽した。



「師範・・・。実は・・・。」



近藤はすでに三年を含めた男子部員の殆どが、又四郎に打ちのめされた事実を、芹沢に話した。



今度は芹沢が狼狽した。


「ええっ!じゃぁ、誰もアイツに勝てないじゃないか!」



「師範、落ち着いてください。我々名門織田高校剣道部が、あんなインチキ剣術馬鹿に歯が立たなかったなど、部始まって以来の恥。幸い背中に怪我をしたと言う事ですし、このまま彼には学校に来て貰わないようにしましょう。」



芹沢はいぶかしがる。


「つまりは?」



近藤は、例の闇討ち計画を芹沢に打ち明けた。




「そ、それは流石にまずいんじゃないか・・・。」


芹沢はたじろいだ。



「いいえ師範。腕の一本でも折れば我々の雪辱も、師範の無念も晴らせるんです。」



副部長の土方も続ける。

「我々の仕業だと、絶対に解らないようにやりますから!」



芹沢は考え込んで、頷く。



「解った。奴の剣士生命だけ絶てれば良いだろう。我々を敵にまわした罰だ。」



芹沢は続ける。


「で、いつ、何処でやるんだ?」


近藤は芹沢に言う。



「奴が夜に必ず素振りに訪れる神社で、今夜にでも。」



「小野遥の情報で間違いないはずです。周りはカメラなど無いため、あの神社ならうってつけです。」



芹沢は又頷き、四人に言う。



「俺も行く。」



五人は今夜の打ち合わせに入った。