息を切らし、這うように竹刀を就いて立ち上がる芹沢。


又四郎は立つ側から竹刀を払い転ばせる。


何度も、何度も。



なかなか立ち上がって来ないときは、芹沢の頭を軽く叩く。


その度に、芹沢の自尊心は傷付けられた。



床に座ったまま竹刀を無茶苦茶に振り回す。

まるで当たらない竹刀を、駄々をこねる子供のように叫びながら振り回す。




「又四郎!もう止めて!!」


遙が静寂を破るように叫んだ。



又四郎の動きが止まる。


又四郎は竹刀を置くと、剣道場から出ていこうとした。



「この、クソガキが!!」


背を見せた又四郎に、渾身の一撃を与えるべく芹沢は襲い掛かってきた。


バキン!!



物凄く大きな音が道場内に響いた。



芹沢が繰り出した一撃を、又四郎はかわし、空を切った竹刀が道場の床に当たり折れたのだ。



芹沢は折れた竹刀を又四郎目掛け、尚も投げつけた。


しかし、手元が狂い遙に向かって凄まじい勢いで飛んでいった。



バシッ!


ガラ、ガラ・・・。


当たるのを覚悟した遙は目を閉じて、頭を覆った。


が、当たっていない。



又四郎が遙をかばうように、背中で投げられた竹刀を受けていた。



又四郎はなにも言わず、剣道場から出ていった。


「ま、又四郎!!」



遙が叫んでも、又四郎は聞こえない風を装って、去っていった。



芹沢は、道場の床に崩れ落ちた。



「い、一年!早く師範を保健室に連れて行け!」

近藤が指示を出す。



三年レギュラー陣は、呆然とこの光景を受け入れられずに立ち尽くした。


芹沢のその姿は、まるで悪さをした子供がお仕置きをされて、しつけられているような光景だった。



又四郎の攻撃は、実際、あの突き一発だった。


あの一発の突きで、いきり立っていた教師を黙らせてしまったのだ。



まるで魔術か手品のような錯覚が、そこには残っていた。






遙は、又四郎を追って道場から飛び出して行った。