「あの〜、すいません。」


唐突に又四郎に声を掛けてきた男がいた。



「なんだ、お主。」



「し、写真撮らせていただいても宜しいですか?」



「しゃしん?しゃしんとは何の事だ?」



「余りにも僕の好きなゲームキャラにそっくりなもので。お願いします!写真撮らせてください。」



男は恐る恐る、しかし眼は爛々と又四郎を見ていた。

風采の上がらないこの男は、又四郎に害を成すべき男では無いと判断して、又四郎は要求を呑んだ。



「で、拙者どうすれば良いのだ?」


「あ、そのままで結構です。まずは数枚。」



シャッターを切る音がする。



「おおお!これだこれだ!すいません、片足を真上に挙げて、腕を組んで頂けますか!」



「こうか?」


又四郎は要求に答える。

カシャカシャッ!



「そうです、そうです!最高です!」


又四郎は少し気分がよくなる。


「足を下ろしていただいて、腕をこう。あ、そうじゃないです!見ていてください、こうです、こう!」



「ふむ、珍妙な格好じゃな。」


並外れた体幹を持つ又四郎は、常人ではあり得ない程のストップモーションを展開する。



「す!素晴らしいです!こんなレイヤーさん初めてです!」



「そ、そうか?意味は解らぬが悪い気はしないな。」



男がスマホを取り出し、ゲームキャラの格好とキメポーズを又四郎に見せる。
次いでに、撮影仲間へ連絡する。



早朝8時。


駅前では又四郎(格闘技ゲームキャラ名・雷電亀五郎)の、大撮影会が始まった。



「いやあ、素晴らしいですよ!現実ならこの人しか居ませんよ。」


「だよね!いやあ、徹夜で帰って来たらたまたま駅に立っていて、これは写真を撮らないとと思ってさ。」


仲間内で話しているなか、又四郎は益々エキサイティングなポーズを繰り広げていた。


波動が手から出ないだけで、形も動きも雷電亀五郎そのものだった。



「いやぁ〜本当にありがとうございました。いい写真が撮れました!」


風采の上がらない男たちは口々に又四郎に礼を述べて、去っていく。



「いやあ、楽しかったな・・・。」



又四郎は感慨深げに呟いた。



時刻は朝10時。


待ち合わせの時間になっていた。




カナはゲラゲラ笑いながらやって来た。



「いや〜又四郎君。私、30分前に来たんだけど、声を掛けられる状態じゃ無いほど大変なことに成ってたよ〜。うふふっ。」


カナは涙を拭う。


「ああ、ホント笑い疲れた〜。」


「なんだ、カナ殿。来ていたのなら、一緒にしゃしんとやらを撮ってもらえば良かったではないか。」



「ええっ!やだよ〜。普通の格好だし。うふふっ・・・。」



カナは笑いが止まらない。



「そうか。楽しかったのだがな。」


「じゃ、ヘンテコな格好をした又四郎君。遙の買い物に行きましょうかね。」


「お、ああ。宜しく頼む。」



ワンピースにサンダル。
ポニーテールに帽子を被ったカナは、青く澄んだ空と見事に重なっていた。

息を飲む程清潔で清楚な美しさが在った。

時おり見える肌は、スポーツで日焼けした健康そうな肌だった。



又四郎は一瞬見とれた。


雷電亀五郎と、典型的な美少女は誰の目から見ても、受け狙いでしかない。


だが、妙に安心して見ていられるホノボノとした空気を二人はまとっていた。