「・・・。沖田、何を・・・。」


又四郎の言葉を遮るように、沖田は続ける。



「又四郎、貴様が遙に本当に相応しいかどうか、俺が判断してやる。」


場内はざわつく。


沖田は高圧的に又四郎に言う。


「お、沖田、貴様遙殿の事を・・・。」



沖田の気持ちに又四郎は初めて気が付いた。


正確には、沖田が遙に好意を抱いている事を認めた。


「ああ、俺は遙の事が好きだ!!貴様が思っているよりもずっとな!」


「又四郎、貴様はどうなんだ?」


沖田が又四郎に聞く。


「わ、わしは・・・。」

ヒュッ!


又四郎の頬を何かが掠めた。


カタン・・・。

削っていない鉛筆だった。


「答えられないのか!ならば遙の傍に居る資格は無いな!!」


沖田は大声で言う。


「又四郎、抜け!俺に負けたなら、潔く身を引け。答えられないその気持ちを胸に閉まってな。」


場内は静けさから一転して、異様な熱気に沸いた。


歓声と悲鳴に似た声が3人に届く。


遙は、何が起きているのか理解できない。

そして、頭の中が真っ白になっていた。



「・・・沖田。良かろう。その話、飲もう。」


又四郎の顔付きが変わる。


数多くの真剣勝負を繰り広げた剣客の顔に戻っていた。



「・・・。そうだ。君のその顔付き。待っていたよ、この瞬間を。」


沖田は誰にも聞こえないような小声で呟いた。




ステージで二人は対峙する。


得物は竹刀だ。


しかし、その二人の気迫はいわゆる殺し合いの闘いのそれだった。



お互い無構えのまま向き合って動かない。





「いや〜本年のステージ発表は面白いですな。」

「千葉先生、ご足労お掛けしましてありがとうございます。」


「地域のこうした集まりは楽しみにしております。また、お誘いください。」


「いやはや、本校の伝統の剣道部がこう言った事態に陥りまして、誠に申し訳ございません。」


「う〜ん・・・。芹沢君は実に残念でした。優秀な教え子でしたので、期待していたのですが、昔から虚栄心が強かったですからな。
今回の事で彼には良いお灸になった事でしょう。」


「そう言って頂けまして誠に恐縮です。しかし、高柳君は本当に回復して良かったです。」


「ええ。彼は特別な存在ですから。流石の私も少々焦りましたよ。」


「本当になんと言ったら良いか・・・。千葉先生の御推薦でしたので・・・。」


「まあ、今はほら、あの通りですから。彼なら更に剣道部を盛り上げてくれますよ。」


「ええ。本年度中に部を再建して、来年には許可を出そうと思っております。高柳君、小野さん。今の一年生を中心に新しい剣道部を作ってもらって、今までのような閉鎖的な部ではなく、本来の武道を学ぶ開かれた部活として。」


「ええ。私も協力させて頂きます。」



来賓で呼ばれた千葉周一は、校長と話をしていた。

毎年来賓で呼ばれている千葉周一は、織田高校に対して絶大な影響力を持っている。

因みに襲撃事件に加担した芹沢は門下生だった。


「あの、沖田と言う少年。かなりやりますぞ・・・。」


「は、はぁ・・・。」

校長は千葉が何を言っているのか理解できない。

ただ、千葉は70歳の老人の顔ではない少年のようなキラキラした顔で、舞台で対峙する二人を見ていた。





ステージも、客席も重い空気が漂い、沈黙と静寂が包んでいる。



互いに無構えのまま、間合いを図り、気迫をぶつけていた。


瞬間、沖田は一気に間合いを詰めた。

又四郎の顔前に迫ってきた。

は、速い。
又四郎は驚異を感じる。

沖田の拳が顔をかすめた。
紙一重で避ける。

抜刀が間に合わない。


沖田の蹴りが又四郎の右脇腹に迫る。

「くっ!」
肘で蹴りを防ぐ。


ビリッ!電撃のような痛みが走る。


防ぎはしたものの、肘にダメージを感じた。


すかさず沖田の左手手刀が又四郎の首めがけて降り下ろされる。


又四郎は右手の拳を手刀に当て、防ぐ。

又四郎は左手の拳を沖田のみぞおちに目掛けて放つ。


沖田は膝で拳を防ぎ、防いだ足が又四郎の頭上を蹴り上げた。


又四郎の頭から鮮血が飛び散る。


又四郎は左足で沖田の体の軸を外す。


体勢を崩しそうになった沖田は、後方に飛び間合いを取る。



遙が叫んだ。


「又四郎!血が!」

又四郎に近付こうとした時、


「来るな!!」


今まで聞いたことの無い怒号が遙に飛ばされた。


又四郎の顔は笑っていた。


ほほう、沖田。体術までわしの模倣か。

又四郎は思っていた。



今度は又四郎から仕掛ける。

跳躍し、間合いを詰める。


沖田の顔面に踵を当てに行く。

「うわっ!」

沖田の鼻先を切り、沖田は頭を反らした。



更に胸部を目掛けて又四郎は蹴りを繰り出す。

ガツッ!


「うっ、くはっ!!」


又四郎の蹴りが、沖田の胸に命中した。


足払いを繰り出し沖田を倒しに掛かる。


沖田は又四郎の足を掴み、関節を固めに入る。



「ぬっ!抜け出せん!」
沖田の捉えた又四郎の足に激痛が走った。


又四郎は渾身の力を込めて足ごと沖田を持上げて床に叩き付ける。


背中を強打した沖田の手が弛む。


沖田の顔面に踵を落とす。

沖田は腕で防ぐ。
沖田の腕が痺れて麻痺した。

互いに間合いを取り直す。


沖田は竹刀を構え、深い呼吸をする。



初太刀の居合抜きで勝負がつかない場合、又四郎も竹刀を構える。



二人は互いに竹刀を構えた。



沖田も又四郎も、独特な構えだった。