「じゃあ、先に他のところ見てるから合流するときは電話して!」
私たちの会話を聞いていたらしい夕羽が、ニヤニヤしながら言った。
それにまた赤くなる私の頬。
夕羽にありがとう、と言ってから佐伯先生の方に向き直る。
「並びましょう!」
「いや、うん、本当ごめんね…」
まだ申し訳なさそうにしている佐伯先生に、目の前にいるこの可愛い人に、触れてみたくて。
腕時計のついた少しゴツゴツしたその手に。
提灯の光を映すその黒ぶちの眼鏡に。
細身だけど筋肉質のその身体に。
少しだけ手を伸ばそうとして、やめた。
触れたらきっと、この距離は壊れてなくなってしまう。
何かが詰まったみたいに苦しくなる胸に、佐伯先生から目線を外した。
…何、話せばいいんだろう。
佐伯先生に話したいことなんていくらでもあったはずなのに、いざとなると何も思い付かない。
つまんないって、思われたくないのに。
一緒にいると楽しいって思って欲しいのに…。



