「っ、佐伯…先生」
語尾は震えて聞こえなかったかもしれない。
さっきまでは怖さで震えていた手が、バクバクしていた心臓が。
今では目の前の佐伯先生にドキドキして、声が震える。
床にしゃがみ込んだ私を見て、佐伯先生は何も言わずに隣に座った。
帰るところだったんだろう、肩からかけていたバッグから何かを取り出す。
もう一度光った空に目をつむったけれど、一瞬で全部の音が遠くに聞こえるようになった。
「え、」
耳にあるそれに手をかけると、ゴツゴツしたヘッドホンがかかっていた。
音楽が流れているわけではないけれど、性能が良さそうなヘッドホンは周りの音を遮断する。
佐伯先生の方を見ても、彼は優しく笑うだけで何も言わない。
きゅっ、と苦しいくらいに締め付ける胸。
本当に、本当に、どこまでもずるい人だ。
さっきよりも光と音との間が短くなった雷鳴が、微かに聞こえた。
このヘッドホンは、いつも佐伯先生が使っているヘッドホン。
さっきまでは目も合わなかった佐伯先生が、今は少し動いたら肩がぶつかるくらいの距離にいる。
何でこのタイミングなんだろう。
何で分かってくれるんだろう。
佐伯先生が今、この教室に来たのはきっとただの偶然で。
私が雷が苦手だってすぐに気づいてくれたのは、佐伯先生だからで。
わざわざ雷怖いの?なんて聞かないのは、大人の優しさだ。



