佐伯先生の優しすぎる嘘





「あ、杏奈いた!
桃果(ももか)ちゃん来てるよ」



教室に戻ると、友達の夕羽(ゆう)にそう言われて、私の席に座る妹の存在に気づく。


放課後の教室だから、人は夕羽と桃果しかいなかった。


桃果は私の妹で、ひとつ年下の高校1年生。

性格は私とは真逆で、ドジでふわふわしていて、それでも甘え上手で皆から可愛がられるタイプだ。

そんな桃果が可愛くて、私も甘やかしてばかりいたのも原因の一つなんだろうけど。


ふわふわの茶色い髪も、ピンクとか白の似合うお人形みたいな顔も、本当は少し羨ましい。


「どうしたの?」


「あのね、鍵忘れちゃって家に入れないの」


…またか。

これで何回目かわからないけど、私はいつもの通り自分の鍵を渡す。



「ありがとう!」

「私はまだ学校にいるから、チャイム押したらちゃんと鍵開けてね?」

「はーい!」




鍵を受け取って帰っていく桃果を見送ってから、クラス委員で頼まれたプリントをホチキスでまとめる。