正直に、言ってくれればいいと思う。


俺のこと好きなの?
俺にその気はないから諦めて。


そう言ってくれたら、私だって…。




ちゃんと、好きです、って言えるのに。



廊下の一番向こう側に、佐伯先生の後ろ姿。

少しふわりとした黒い髪と、落ち着いた歩き方と、男の人にしては細身の肩幅。


それだけで私の心を支配してしまう佐伯先生は、そんなこと絶対に聞いてくれない。



絶対に気付いてる私の気持ちにも気付かないふりをして、それでも私の心を奪って。



ずるい、本当、ずるい。



そんな佐伯先生のずるいところが、少し嫌いで、だけどどうしようもなく、大好き。




「…佐伯先生」




そう呟いた声は佐伯先生の耳には届かない。


たとえ耳に届いたとしても、佐伯先生の心に届かない。



佐伯先生。


私のこと、



好きになればいいのに。





あの日は晴れてくれたはずの雨空は、翌日まで灰色のままだった。