だけどー…。
『ごめん、俺、桃果の方が好きだわ』
そんな言葉を聞いたのは、土砂降りの雨の日で。
今日みたいに、この学校の廊下で。
顔も見れない、音声だけの別れを電話の向こう側に聞いて。
…本当は少し、気付いてた。
この人はきっと、私が思っているような人じゃないって。
優しかったのは表面上で、本当はもっと、なんていうか…。
最低な人だと思う。
だけどそんな彼は女の子の扱いもうまくて、本性を隠すのも上手で。
だから振られた時も、あまり悲しくはなくて。
だけど彼のことを好きだったのもそれはまた事実で、自分に引き止める可愛げがないことを憎んだのも本当だ。
佐伯先生に会ったのは、そんな最低な日だった。
「大丈夫?水島さん」
まだ入学間もない時で、担任でもない人気者の先生に名前を覚えてもらっているなんて思ってもみなかった。
佐伯先生。
どうしたって切なくて、その気持ちをどこかに吐き出したくて。
だからつい、佐伯先生に話してしまった。
愚痴を人に言うのは嫌だったけど、今回だけはどうしようもなくて。
でも一番の理由は、佐伯先生の声に何故か少し安心したからだと思う。
私の話をいつもののんびりとした口調で聞いてくれて、それが私の心を落ち着けてくれて。
話終わった時は、少しスッキリしてた。
「ありがとう、ございます」
「俺は何もしてないよ」
話し終わると、はは、と笑う佐伯先生は、特にアドバイスをくれたわけじゃない。
でも私はアドバイスがほしいんじゃなくて、誰かに聞いてほしかっただけで。
それを佐伯先生は、全部分かってるみたいに受け止めてくれた。



