「えー、やだぁ!やめてくださいよー!」
楽しそうな声の主はすぐにわかった。
…相手が誰なのかも。
「高坂は変わってないなぁ」
…佐伯先生。
今までは目が合わないかな、ってちょっとの期待を込めて佐伯先生を目で追ったりしてたけど。
今は、目が合うのが。
ううん、目が合って、逸らされるのが怖くて前を見れないでいる。
…佐伯先生は格好良いから。
モテるから。
あんな告白のようなそうでないようなことを言われるのには慣れてると思う。
私の脳内の99%を占めるあの出来事だって、その日のうちに忘れてしまったかもしれないのに。
だけど授業中、佐伯先生の声を聞いているだけで泣きたくなるから。
佐伯先生が喋る夏目漱石の話は、私が見つけた資料のひとつで。
そのことが苦しいくらいに胸を締め付けるから、佐伯先生の話をちゃんと聞くことすらできなかった。



