佐伯先生の優しすぎる嘘





「っ、私…帰ります…!
手伝うって言ったのにごめんなさい…」




そう言って図書室を飛び出したのは、佐伯先生とふたりきり…という夢にまで見た状況に耐えられなくなったから。


…何で、あんなこと聞いたんだろう。

すごく楽しみにしてた放課後だったのに。


なんで私、泣いてるんだろう。

この気持ちが届かないことくらい、分かってたはずなのに。



それでも後から後から落ちてくる涙は止まらなくて。



涙の溜まった目で、ほんの少しの期待を込めて振り返ってみたけど。


追いかけてきてくれるようなことはなくて。

そんなのドラマの中の出来事で。


現実は、人のいない、広い廊下がただ広がっていただけだった。




相手が先生だって、それだけのことで、


好きって言うことすらもできなくて。



私は“先生”が好きなんじゃない。

彼のことが、“佐伯蒼”っていう人のことが、


どうしようもなく好きなだけなのに。