佐伯先生の優しすぎる嘘





「これで佐伯先生をドキドキさせてくるんだよ!」



ふふん、と笑う夕羽に、私は苦笑い。

ドキドキ、してるのは私だけだもんなぁ…。




放課後、結局この格好で図書室へ向かっている私。



校則違反、って言われるかな。

ていうかそもそも、私の微々たる違いなんて気付かないかもしれない。

その予想が1番有力な気がして、切なくなる。




ーガラッ




「佐伯先生」


図書室に入ると、すぐに本棚の前にいる佐伯先生を見つけた。



「おー。水島さん、ありがとね」



…ノーコメントだ。

やっぱり気付かないよね。

ほら夕羽、佐伯先生は私のことそんなによく見てないよ。


なんて思ってしまう。




「この作者についての資料が載ってる本を探して欲しいんだけど…」


「夏目漱石、ですか」


「そうそう」



私も並んで本を見つけてはパラパラとページをめくって、資料を探す。



本当は開いていないはずの月曜日の放課後の図書室。

きっと佐伯先生が資料を探すために自分で鍵を開けたんだろう。


そんな図書室には図書委員もいなくて、ふたりきり。

カチ、カチ、という時計の秒針だけがやけに大きく響いていて、

それでも私の心臓の音の方が大きい気がした。