「…何で、私のこと名前で呼んでくれなかったんですか?」
「え…それ聞く…?」
嫌そうに顔をしかめる佐伯先生に、
卒業したら教えてくれるって言ったじゃないですか、と続ける。
「…から」
「え?」
顔を背けて、
「…名前で呼んだら、周りにも俺が水島さんのこと好きっていうのバレるから!
思いっきり愛しそうな顔で名前で呼んでたら、さすがに周りからも分かるでしょ。
普通の表情で名前呼ぶ自信なんか、ないし…」
ぶっきらぼうに言う佐伯先生の耳は少し赤くて、そんなの可愛すぎて。
そんなに私のこと、大好きでいてくれたんですか?
名前を呼んだだけで、周りに「好き」が漏れてしまいそうなほどに?
伝染するように赤くなる顔を、うつむいて隠す。
嬉しい。
嬉しいけど、苦しい。
そんなにも想ってくれていた人から離れてしまったのは、正解だったのかな。
それすらもよく分からなくて。
「…そうだ、大学合格おめでとう」
佐伯先生はまだこちらを向かないまま。
「ありがとうございます」
そう、第一志望の大学に合格して、私は春から東京で一人暮らしだ。



