佐伯先生の優しすぎる嘘




次は図書館。





図書館は鍵が開いていないから、ドアの窓から中を覗く。



ここはちょっと、切ない思い出だ。




“I love you”の訳し方。



佐伯先生は、“幸せになってください”って言った。




あの時は本当に切なくて、苦しくて。



でも今思えばそれすらも大切な思い出だ。




今の私なら、あの頃よりずっとその意味がよく分かる。




“大人になったら分かるよ”





そう言ったあの頃の佐伯先生に。





「…私、少しは大人になれましたか?」





呟いた声は、誰もいない廊下の陽だまりに溶けていった。