佐伯先生の優しすぎる嘘





まずは、2年生の時の教室。



思い出が詰まりすぎていて、一歩踏み入れた瞬間懐かしさがこみ上げる。



たった1年前なのに、すごく昔のことみたいで。




1番長く佐伯先生との時間を過ごしたのは、きっとこの教室だ。



今は後輩の荷物がたくさん置いてあって、もう私たちのものじゃなくて。


でも黒板とか机は変わってない。






『はーい、席ついて』




チャイムが鳴って、2分遅れで教室に入ってくる佐伯先生。



ふわりとセットされた黒髪。

黒縁の眼鏡と、レンズの奥の吸い込まれそうな瞳。


綺麗な白いワイシャツに、たまにつけてくれる、私がプレゼントした赤いネクタイ。


優しい喋り方。


黒板の右上がりの字。



全部全部、大好きで。


今でも鮮明に思い出せて。




だけどもう、佐伯先生のその姿を見ることはないんだ。



そう思ったら急に、卒業って実感が湧いてくる。