佐伯先生の優しすぎる嘘






眉を下げて、いつもみたいに笑った佐伯先生は






「幸せになってよ」










“I love you


佐伯先生ならなんで訳しますか?”





“幸せになってください、かな”






そんな会話が蘇る。




…なんかもう、それだけで十分で。





私の前を通り過ぎて、屋上から出ようとする佐伯先生。


表情は見えない。



その背中に、どうしようもなく抱きつきたい。


でもそれはもうできない。



もう佐伯先生に、触れることができない。


これで本当に、最後なんだ。



もう明日からは“先生”と“生徒”。


その黒くて綺麗な髪に触れることも、


眼鏡の奥の瞳に捕らえられることも、


佐伯先生の体温が私に触れることも、




もう、ないんだー…。







春の風が、ふわり、優しく私たちを包み込む。