ガチャン。



家に入って、鍵を閉めた瞬間ポロポロと溢れて止まらない涙。




「っ、うぅー…」




何で、何でこうなっちゃったの?


今日は2月14日だから。


バレンタインだから。



頑張って作ったガトーショコラを渡して、一緒に夜景を見て、好きですって言って。




幸せな時間を過ごすはずだったのに。





何でキスされたことに気付かないの?


何で詩織さん家に泊めちゃうの?


何で詩織さんがあの場所にいたの?


何で、何で…。




佐伯先生はこんなにつかめないの?






紙袋からガトーショコラの入った箱を取り出す。


上が透明で中が見えるようになっている、ピンクの箱。





「っ…」





箱を開けると、甘いチョコレートの匂いがふわりと広がる。





「うぅー…っ」






ポタリ、とガトーショコラの上に落ちた雫は次々とそれに続いて落ちる。



濡れていくガトーショコラ。





“詩織さんと、付き合ったらどうですか?”





ねえ、嫌だよ。


お願いだから、離れて行かないで…。




鳴り続ける着信メロディーすら聞きたくなくて、携帯の電源をオフにした。