「帰ります…っ」
これ以上見ていたら、佐伯先生に嫌われるような言葉を言ってしまいそうで。
佐伯先生に嫌われたくないから。
そんな理由でその言葉を飲み込む私が、本当に子どもなことも分かってて。
詩織さんに敵うところなんか、何一つないことも分かってた。
帰り道も分からないけど、それでもここにはいたくない。
これ以上黒い感情がわいてくる前に、この場を逃げたい。
それは子供な私なりの、精一杯の大人な選択だった。
「ちょ…待って、1人で帰れないでしょ!」
慌てた佐伯先生が、詩織さんを引き離す。
離れた2人を見て少しホッとしてしまった自分が何よりも嫌いだ。
「送らせて」
そこだけは譲らないとでも言うように力強く言って、私を車に乗せる佐伯先生。
「ごめん、気をつけて帰って」
立ち尽くす詩織さんにそんなことを言って車に乗り込む佐伯先生は優しい。
そんな優しい佐伯先生を好きになったはずなのに。
何で、詩織さんにまでそんなに優しくするの?
何で、詩織さんに何も言ってくれないの?
彼女とデートしてるのに、バレンタインなのに、まだチョコも渡せてないのに。
そんな中に割って入ってきた詩織さんに、何で気を使うの?
勝手に人の彼氏にキスした、詩織さんに優しくするの…?
…もう嫌だ、こんなこと考えるの。
私、こんなに性格悪かったっけ?
今にもこぼれ落ちそうなこの涙の原因が、悔しさなのか、寂しさなのか、悲しさなのか、よく分からない。
でも今は泣きたくない。
今泣くのは悔しい。
そんな意味のないプライドのせいで、私やっぱり可愛くない女のままだ。



