佐伯先生の優しすぎる嘘






「ありがとうございました」



シートベルトを外し、お礼を言う。




「…いいの?

私このまま蒼の家に戻るけど」





まっすぐな視線に、下を向く。


…嫌だって言えるなら、嫌だけど。

でも今はそれより、佐伯先生を1人にする方が心配だ。




「よろしくお願いします…」



そう言うと、少し驚いた表情。




「私、蒼のこと好きなんだよ?

蒼の家に2人きりなんて、何するかわからないよ?」




「佐伯先生は、しないと思うから…」




そうは言ったものの、やっぱり少し自信がなくて語尾が小さくなる。

と、少し考えてから詩織さんがポツリと呟いた。





「…やっぱり、杏奈ちゃんに蒼は合わないと思うけどな」




「え…?」




「2人ともよく似てるから、このままだとお互いに無理してばかりなんじゃない?」





じゃあおやすみ、とだけ言って走り出した車。


その言葉は何よりも深く私の心に刺さって、しばらく動けなくて。



詩織さんと佐伯先生は2人きりで。

私は子供だから家に帰らなくちゃいけなくて。

詩織さんの言葉に反論なんかできなくて。





月の光が、真っ暗な空にぼんやりと浮かぶ。


冷たい風の中、しばらく薄いその光を見つめていた。