佐伯先生の優しすぎる嘘




「…失礼します」




放課後、進路指導室のドアをゆっくり開ける。

『今日の放課後、進路指導室に来て』


佐伯先生にそう言われたから。




「進路、どうする?」




やっぱりその話だよね。

夕羽は専門学校に行くらしいし、他の友達も着々と志望校を決め始めているから、私だってさすがに焦る。



「悩んでるなら相談に乗るよ。
…これは、担任として」



佐伯先生の手元にある色々な大学のパンフレットに目を移す。




「…いい大学に行きたいし、そのためには東京に行くべきなのも分かってるんです。

…でも、やりたいことが明確にあるわけじゃないのに…その、いろんなものを犠牲にしてまで東京に行くのは正解なのかな、って…」




特にやりたいことがあるわけじゃない。

漠然と“いい大学”に行くべきなんだって思って勉強してきたけど…。



こんなにも大切で、幸せな恋を捨ててまで、“いい大学”は行く価値があるものなのか分からなくて。


佐伯先生とうまくいかなくなってしまうかもしれない。


そんな可能性が少しでもあるなら、私はここにいたい。

だけどそんなのも子供の考えなのかなって思ったら、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまって。