佐伯先生の優しすぎる嘘





帰った方が、いいと思った。



ここにいても邪魔だし、気になるけどこれ以上このふたりを見るのは嫌で。



だけど、なぜか足が動いてくれない。



ゆるく柔らかく巻いた優しい色の髪。

肩よりも短いのに、ロングヘアよりも女の子らしい気がした。


白いロングスカートがふわりと風に舞う。

その風は、佐伯先生の黒髪も揺らして、表情を隠した。



それはドラマのワンシーンみたいで。


何ていうか、すごく綺麗で。


悔しいけどお似合いで。



詩織さんの顔にかかった髪をよけてあげる佐伯先生の手に、仕草に。


ふたりの積み重ねてきた時間が見えてしまった気がした。



佐伯先生は、私のことを杏奈って呼ばない。


それはそこまで気にしていなかったけど、詩織ってその声を聞いてしまうと一気に気になって。



…帰ろう。




振り返っても佐伯先生はこっちを見ない。


冬の冷たい風が頬をさした。