「うーん…」
午後9時半。
自分の部屋のベッドで1人、スマホの画面と睨めっこを始めてからもうすぐ10分。
修学旅行の代休である11月のはじめの今日。
修学旅行で、佐伯先生の彼女になれて。
みんなに隠れてキスまでしちゃって。
本当に幸せな4日間だった。
そして教えてもらった連絡先。
アドレス帳に《佐伯蒼》の文字が表示されているのが信じられない。
修学旅行が終わるとすぐに土日があって、それから代休に入ってしまったから、佐伯先生とは全然喋れていない。
電話、したい。
そう思って佐伯先生の電話番号が表示されたスマホの画面を見つめてから、もう十数分。
毎晩これを繰り返した挙句、一度も電話できなかった。
何の用もないのにかけていいんだろうか。
必死に口実を探してみたりはしたけど、特に何も思いつかなかった。
「…やめようかな」
修学旅行のことが、全部私の都合のいい妄想だったんじゃないかとか。
佐伯先生は本当に、私を好きでいてくれてるんだろうかとか。
そんなことばかり頭をよぎるから、今日もまた勇気が出なくて、スマホを枕元に軽く投げた。