「じゃあ私、帰りますね…っ」
佐伯先生を振り返らずに、走ってドアに向かう。
「っ、待って…最後まで聞いて」
ドアを開けようとドアノブにかけた手に、私のより大きな手のひらが重なる。
見なくても、背中に触れる体温だけで、佐伯先生がどれだけ近くにいるのか分かった。
背中に神経が全部集中するみたいでドキドキして、耳元で聞こえる声にクラクラして。
「ごめんね、それでも俺は水島さんと一緒にいたい」
耳元で、1番近くで聞こえたその声は確かに本物で。
少し掠れた声に、また胸が締め付けて。
驚いて振り返ると、真剣な表情。
「そ、れって…」
「俺の彼女になってください」
「でも、私、佐伯先生に迷惑かけたくない…っ」
「これは俺の我儘だよ」
その言葉は何よりも嬉しくて。
いつになく真剣な表情で。
彼の手は腕時計を触っていなくて。
夢なんじゃないかって何度も思って。
「はい…っ」
後から後から溢れる涙を、佐伯先生の指が拭ってくれた。



