「ちょっと意味分からない」
「ははっ、だよねー」
楽しそうに笑う斗真を少し睨む。
「見たかったんだよね、傷付いた杏奈を」
綺麗な横顔は、いつもより少し落ち着いた声で言った。
「杏奈が1番傷付くのは桃果かなー、って」
「…何でそんなことしたの」
彼はふわり、と笑って答えた。
「杏奈の泣き顔が好きだからだよ」
…やっぱり、歪んでる。
この人の愛は。
そんな彼を昔好きだったのも事実だから、特に何も言えない。
「だからあの時も今も、本当は杏奈のこと好きだったよ」
「…信じたくない」
「うん、じゃあ嘘だよ」
本音なんて一度も見せてくれたことのない彼は軽くそう言って、駅まで送ってくれた。
「またね」
「…バイバイ」
手を振った時の切なそうな表情の意味はよく分からなくて。
今日言ってたことの、どれが本当でどれが嘘かも、もしかしたら全部嘘なのかも分からなくて。
ひとつだけ分かるのは、何を言われても今の私には佐伯先生しか見えないってことだった。



