佐伯先生の優しすぎる嘘





「…元気だったよ、前よりずっと」




あなたに振られたのも、引きずってないよ。

そんな嫌味と強がりを込めて言った言葉が、彼に伝わったのかどうかはわからない。




分からないけど、私の手首を掴む腕の力が一瞬強くなって。

それから、ふーん、という言葉とともに私の手は解放された。





思いの外あっさりと離された手に少し驚いたけれど、くるりと彼に背を向けて反対方向に歩き始める。





「彼氏できた?」





新しく、と続けた言葉に若干イラつきを覚えながら、無視を決め込む。




「そんなに俺と喋りたくないわけ?」




喋りたいとでも思ってるのか。

もしそうだとしたら、人の気持ちをもう少し勉強した方がいいよ。


そうでなくても、した方がいいけど。





「俺は杏奈に会いたくてしょうがなかったのになぁ」





白々しくそんなことを言う彼をわざわざ振り返って睨むと、ニヤリと笑う彼。



…嫌いだ。






「仕方ないからまた来るよ、杏奈ちゃん」




気持ち悪いくらいの笑顔で言って、さっさと帰ってしまった彼は一体何をしたかったんだろう。



少し震える自分の手に気付いて、反対側の裏門から遠回りして家に帰った。