佐伯先生の優しすぎる嘘





…そう思ったのに。





「あーんなちゃん」




学級委員の会議で少し遅くなり、1人で学校を出ようとした時。


校門に1番会いたくない人の姿を見つけて、気付かれないように裏門から帰ろうと背を向けた瞬間。



…大嫌いなその声は、私の名前を呼んだ。



違う、人違い!

似てるけど私は水島杏奈じゃないよ!


心の中で必死にそう訴えながら、別人のふりをして彼とは反対方向に足を早める。





「無視すんなよなぁ?」



見なくても分かる、口角をクイっと上げたはずの彼は、気付いた時には私の腕を掴んでいた。




「ふ、不法侵入…」




わずかに校門から学校の敷地内に入った彼に言うと、ふはっ、と笑われた。


本当に久しぶりに見る彼は、背が伸びて、髪が茶色くなって、何ていうか、大人になっていた。




「元気だった?」



「…手、離して」



「質問答えろよ」


「じゃあ離してよ」




この会話のループに呆れたようにため息をついた彼。

呆れるなら離してくれればいい。





「嫌だよ、離したらお前逃げるじゃん」




「当たり前でしょ」




じゃあ離さない、とでも言うように強くなった手の力に、正直に言うんじゃなかったと後悔する。