佐伯先生の優しすぎる嘘






「ねえ、そう言えばさ」




言いにくそうに切り出した夕羽。





「黒瀬から、連絡が来た」




“黒瀬”





懐かしくて、でも出来ればあまり聞きたくない名前に思わず咳き込む。



中学生の時の、彼氏。

夕羽も同じ学校だったから、連絡先を知っていてもおかしくない。

私はもう、アドレス帳から消してしまったけど…。




強張った私の表情を見て、夕羽は気まずそうに続ける。




「…杏奈に会いたいって」





なん、で…?

頭がついていかない。

少し震えている指先に、自分で思っていたよりも彼との思い出にダメージを受けていたことに気付く。




「ふざけんなって言っといたけど、黒瀬のことだから…」




ちょっと気を付けたほうがいいよ、と言う夕羽に、黙って頷く。




…ただの、気まぐれならいい。


次の日にはコロッと忘れて、違う女の子に会いに行っていればいい。



私はどうしても、黒瀬斗真に会いたくない。