「何唸ってるの?」




無意識に考え事をしていた私に、夕羽が不審そうな顔をする。

考え事は、佐伯先生が怒った理由なんだけど。





「…あのね、」





夕羽は親友だから、夕羽にだけは喋ってもいいと思う。


そして大体の話を聞いた夕羽はきっぱり、



「え、杏奈馬鹿なの?」



って言った。本気の顔で。



「馬鹿…では、ないと思う」



一応成績はトップクラスだったはずなんです。

勉強は頑張ってるんです。




「違うよ、何かこう…馬鹿だよ」



そんなにバカバカ言わなくてもいいと思うけど…。




「佐伯先生、自分のことも考えろって言ったんでしょ?」


「うん…」



「杏奈がまた桃果ちゃんの事ばっかり考えるからでしょ。

杏奈こと心配して怒ってくれたんだよ。
本当に大人、イケメン!」



はぁ、とうっとりする夕羽。

…その答えに、行きつかなかったわけじゃない。


でも、私には佐伯先生にそこまで心配してもらえるほど、好かれている自信がなかった。



桃果が手紙を受け取ってすらもらえなかったことも理由のひとつかもしれない。



最近忘れかけていたけど、教師からしたら生徒からの恋愛感情なんて迷惑なんだろう。


だとしたら私は、佐伯先生に迷惑をかけ通しているわけで。




「違うと思うなぁ…」






夕羽にひと口もらっていい?と聞いてから、サイダーを飲んだ。


しゅわ、と口の中に広がる爽快感。






「じゃあ杏奈は、先生が自分に迷惑をかけられたからって本気で怒るような人だと思ってるの?」



「…それは、思ってないけど…」





「あのねぇ、佐伯先生は結構杏奈のこと好きだよ、多分」



「多分…」



そこにひっかかる私にイライラしたらしい夕羽は、私の手からサイダーのペットボトルを奪う。




「杏奈はもっと自信持ちなさい、可愛いんだから」




「ありがと…」




へらり、と笑った私に夕羽は、


「お世辞とかじゃないからね?」



と念を押した。