佐伯先生の優しすぎる嘘





「他のやつにバラしたりしないから、安心して」



落ち着いた、いつもの声で。

それが何故だか私の胸をギュッと締め付けた。


…苦しい。



何で、分かってたのに。

佐伯先生が私のことただの生徒としか思ってないことくらい、当たり前だ。

でも、こんなに興味なさそうにされたら…。


じわり、と熱くなる目頭。

一度まばたきをしただけで、瞳に張る涙の膜。

涙のせいでぼやけた佐伯先生の服の袖を、そっと掴んだ。






「私の好きな人、大人なんです!


…いつも落ち着いてて、私なんか眼中になくて、でも誰よりも私のことを理解してくれて…!

私の本心に気付いてくれた時、すごく嬉しくて…」





なんだろう、言うつもりじゃなかったのに。

影から見てるだけでいいなんて、ただの綺麗事だったみたいで。






「佐伯先生、私…っ、」






瞬間、唇に当てられた彼の人差し指が、それを遮る。


少し冷たくて、どうしようもなく愛しいその指が触れた瞬間。


身体中に電流が流れたみたいに心臓が跳ねて。

頭が真っ白になって。

ドキドキして、言葉が出なくなった。




それを見て、少し眉を下げて笑った佐伯先生は、



「水島さんは良い生徒だよ」



って言った。