佐伯先生の優しすぎる嘘




佐伯先生ってどれくらい視力が低いんだろう?


佐伯先生の見ている眼鏡越しの世界が見てみたくて、そっとその黒縁に触れてみたけど。




「っ、」




ここが職員室だということを思い出して、慌てて手を引っ込める。




…暇だなぁ。


なかなか帰ってこない佐伯先生に、窓の外の青い空を見ていると。





「あれ、水島さん?」




やっと戻ってきた佐伯先生は、暑そうにネクタイを緩めてワイシャツをパタパタやっている。



「外に出てたんですか?」



「うん、水島さんは?」


「これを、届けに…」




ずっと持っていたせいで金属部分が少し温かくなってしまった腕時計を差し出す。


「あー!忘れてた、ありがとう!」



腕時計がないことに気付いていなかったらしく、自分の腕についていないそれを確認してから時計を受け取った。




「職員室、涼しいですね」



席に座る佐伯先生に、まだ帰りたくなくて話しかけてみる。



「本当、天国だよね。
仕事の山がなければ」



なんて笑う佐伯先生の笑顔が、好き。


誰にでもそうやって笑いかけて、人の心に入り込むのが上手なくせに、自分の心には入らせない。


そんな掴めないところすらも、好き。