佐伯先生の優しすぎる嘘





「じゃあ俺はクラス見ていくから、桃果さんも自分の教室戻りな」


「はーい…」





私と佐伯先生の教室の前で、つまんないのー、と口を尖らせて歩いて行った桃果。


って、今…。

『桃果さん』って、言った…?





「先生、桃果のこと名前で呼んでるんですか!?」



「え?

…ああ、水島さんだとお姉ちゃんと混ざるから名前で呼んでくれって言われて…」



何てことないような口調の佐伯先生だけど、私にとっては重大なことだ。




「…私のことは名前で呼んでくれないんですか?」



教室の、ドアの前。

ドアの向こうからは楽しそうな笑い声が聞こえる。


ドア1枚開けたら、佐伯先生は『担任の先生』になってしまう。




「…桃果さんが名前呼びなら、水島さんは混ざらないから大丈夫でしょ」




笑って誤魔化して、教室のドアを開けた佐伯先生。



「佐伯先生!」
「久しぶりー!」


きゃあっと歓声が上がった。

もう届かないくらい広がってしまったふたりの距離に、少しヘコみながら教室に入る。



「あ、杏奈!ジュースありがとう!」



みんなにジュースを渡して、運ぶのを手伝ってくれた佐伯先生にもお礼を言った。